社会保険適用拡大により社会保険への加入者が増え、企業側・従業員側双方にメリット・デメリットがあります。
社会保険適用者の社会保険への加入は必須なので、企業側は従業員の労働条件などを把握して適用者をピックアップし、加入を促す必要があります。
社会保険適用拡大に向けて体制を整えることが急務となるでしょう。
従業員側は、社会保険の負担を減らすため扶養内で働きたいという希望を持ち、労働時間の調整を希望するケースもあります。
本記事では、2022年10月より適用対象が拡大となる社会保険の概要から、賃金を含めた働き方の変化などを詳しく解説します。
2022年10月以降の社会保険制度の適用拡大
2022年10月以降、社会保険制度の適用拡大予定があります。
現在、以下の条件を全て満たす場合、社会保険の対象となっています。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額報酬が88,000円以上
- 1年以上継続して雇用される見込みがある
- 学生でないこと
- 501人以上の事業所
要件を満たせば、パート・アルバイトであっても社会保険の対象となります。
2022年10月からの改正点
2022年10月からの改正点は、2点挙げられています。
- 継続して1年以上雇用見込み→継続して2カ月を超えて雇用見込み
- 501人以上の事業所であること→101人以上の事業所であること
2022年10月から変わる社会保険の適用拡大についての情報を把握し、企業側・従業員側ともに心構えが必要となるでしょう。
【企業側】社会保険の適用拡大によるメリット・デメリット
社会保険の適用拡大は、企業側にとってメリット・デメリットがあります。
メリット・デメリットを把握した上で体制を整える必要があります。詳しく見ていきましょう。
企業側のメリット
企業側のメリットとして、従業員のモチベーションアップにつながることや、社会保険適用拡大に伴う支援を受けられる点が挙げられます。社会保険適用拡大に伴う企業側のメリットを解説します。
従業員のモチベーションが高まる
社会保険加入により、パート・アルバイトなど短時間労働勤務であっても、自立心が芽生える可能性があります。従業員のモチベーションを高められるでしょう。
社会保険の適用拡大に対する支援を受けられる
社会保険の適用拡大は企業にとって負担がありますが、支援を受けられるケースがあります。
たとえば、短時間労働者の正社員化や労働時間の延長などを行った場合の助成金である「キャリアアップ助成金」があります。企業は優秀な人材を確保しやすくなるのが魅力です。
企業側のデメリット
社会保険適用拡大により、社会保険料の負担が大きくなるなどのデメリットがあります。
企業側のデメリットについて解説します。
社会保険料の負担が大きくなる
社会保険の適用拡大により、企業側は社会保険料の負担が大きくなります。
社会保険料は、企業側が半分支払うことになるので、適用者が増えると経営上打撃になる可能性があります。
人手不足につながる可能性がある
従業員によっては、扶養の範囲内で働きたいため、社会保険への加入へ前向きでないケースがあります。
労働時間の短縮を希望するなど、人手不足になる可能性があります。
また、社会保険料の負担により手取りが減るので、従業員への説明が不十分な場合トラブルにつながるでしょう。
【従業員】社会保険の適用拡大によるメリット・デメリット
社会保険適用拡大により、従業員側にはメリット・デメリットがあります。
加入したいと思う方もいれば、加入することに抵抗を感じる方もいるでしょう。
ここではメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
従業員側のメリット
従業員側のメリットとして、社会保障が充実することが挙げられます。
扶養の範囲内で勤務している場合よりも、受け取れる手当が多くなります。
また、手取りは減るものの、年金関連の負担が小さくなるケースもあります。
従業員側のデメリット
従業員側のデメリットとして、保険料の負担が大きくなることが挙げられます。
特に扶養内で勤務していた場合は保険料の負担が小さいので、社会保険加入により社会保険料を納めることになるのは負担です。
また、これまでは扶養に入る基準が年収130万円未満となっていましたが、社会保険適用拡大により年収106万円以上で社会保険への加入が必要になります。
手取りが減り悩む場合は勤務時間延長の交渉をし、手取りを増やすなどの対策も手段です。
今の手取りと将来の年金いずれを重視するかの決断が重要
社会保険への加入により手取りが減ることに抵抗を感じる従業員もいますが、今の手取りと将来の年金いずれを重視するかの決断が重要です。
社会保険の加入により手取りは減るものの、将来の年金受給額が上がったり、遺族厚生年金や障害厚生年金などの万一の保障が充実します。
社会保険適用拡大のメリット・デメリットを検討する際は、長い目で見る必要があるでしょう。
人事担当が社会保険適用者に対応すべきポイント
パート・アルバイトで社会保険の適用要件を満たす従業員がいる場合、人事担当は社会保険への加入を促す必要があります。あらかじめ対応すべきポイントを把握しておくとスムーズです。社会保険への加入漏れがないよう、注意が必要です。
社会保険の加入対象者を把握しておく
まずは、社会保険の加入対象者を把握する必要があります。
特に勤務期間に注意が必要です。
今までは、「継続して1年以上雇用見込み」となっていましたが、改定後は「勤務期間が2ヶ月以上の見込み」となるので、対象者が大幅に増える可能性があります。
なお、2ヶ月未満の契約であっても、契約書などにより更新予定となっている場合は、社会保険の対象となります。
1人1人の労働条件を確認し、社会保険の加入対象者を把握することが大切です。
社内での社会保険の適用拡大について周知する
パートやアルバイト勤務で、社会保険の加入対象となる従業員がいる場合、適用拡大について周知する必要があります。
周知方法としては、以下が挙げられます。
- 掲示板
- メール
- 社内説明会
厚生労働省よりパンフレットが準備されているので、周知する際に利用すると便利です。
認識違いによるトラブルを防ぐため、情報提供が重要になります。
社会保険への加入意思を確認する
社会保険制度の適用拡大に伴い、社会保険の加入対象者は増えますが、扶養の関係もあるので加入に前向きでない職員もいるでしょう。
要件を満たすと社会保険への加入義務が発生するため、労働時間、勤務日数の調整を希望する可能性もあります。
そのため、1人1人にヒアリングし、社会保険への加入意思を確認する必要があります。
トラブルに発展するのを防ぐため、認識違いがないよう、個別面談などでしっかり確認しておきましょう。
社会保険の加入手続き申請を行う
社会保険の加入対象者がいる場合は、会社側が社会保険の加入手続き申請を行う必要があります。
まず、日本年金機構へ、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出します。
被保険者となる従業員に関する、以下の情報を記載する必要があるので、あらかじめ確認が必要です。
- 氏名
- 生年月日
- 住所以外
- マイナンバー
- 基礎年金番号
書類の提出方法は、以下のように複数あります。
- 窓口
- 郵送
- オンラインでの電子申請
特にオンラインでの電子申請は利便性が高いので、事前に把握しておくことをおすすめします。
社会保険加入を事前に対応すると助成金を受け取れる
社会保険加入を事前に対応すると、助成金を受け取れる制度があります。
というのも、社会保険加入対象者が増えると、会社には負担になります。
社会保険制度適用後に対象者への社会保険加入に対応するのではなく、制度適用拡大前に加入対応すれば、見返りとして助成金を支給する仕組みです。
具体的には、「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」にて、助成金を受け取れます。
ただし、選択的適用拡大導入時処遇改善コースは、社会保険適用拡大前に対応した企業対象なので、2022年9月30日に廃止予定です。
社会保険の適用拡大による企業や労務担当者への影響
社会保険の適用拡大により、社会保険への加入対応のみならず、体制の調整が必要となります。
社会保険の適用拡大による企業や労務担当者への影響について解説します。
社会保険料の負担が増加する
社会保険制度の適用範囲拡大により、被保険者数が増えることとなります。
社会保険に関しては、会社側も負担する必要があるので、経営に影響します。
あらかじめ、社会保険の対象となる従業員の人数を把握しておき、収支計画を立てる必要があるでしょう。
従業員の数え方を把握しておく必要がある
社会保険の適用範囲拡大の要件として、「101人以上の事業所であること」というのがあります。
ただし、数え方に注意が必要です。
数える際は厚生年金の被保険者のみなので、企業全体の従業員数とは異なります。
また、従業員の数が頻繁に変わる場合、タイミングによって従業員数に差が生じるケースがあります。
6ヶ月基準を上回ったタイミングで適用されるのが一般的です。
なお、社会保険制度適用拡大の対象となると、従業員数が減り基準を満たさなくなったとしても引き続き適用されます。
労務管理を徹底する必要がある
社会保険適用対象となると、労務管理を徹底する必要があります。
というのも、社会保険料の徴収額は標準報酬月額をもとに算出されるので、給与により変動します。
なお、適用要件を満たすにも関わらず社会保険に加入していない労働者がいる場合、さかのぼって加入させる義務があるので注意が必要です。
社会保険制度適用拡大に関する相談先
社会保険制度の適用拡大は、企業のみならず、労働者側にも大きな影響があります。
そのため、社会保険制度の適用拡大がスムーズに進まないケースもあります。
困った場合は、専門家に相談することが大切です。
社会保険労務士
社会保険労務士は、社会保険の専門家です。
相談する際は、従業員の労働条件などに関する情報があるとスムーズです。
社会保険労務士を探したい場合は全国社会保険労務士会連合会のホームページにて検索可能です。
日本年金機構
日本年金機構は、社会保険労務士を含めた専門家を派遣する役割を担っています。
社会保険適用拡大に関する悩みがある場合、アプローチしてみると良いでしょう。
「専門家派遣依頼届」を提出することで、派遣してもらえます。
よろず支援拠点
中小企業庁には「よろず支援拠点」があり、中小企業における社会保険適用拡大に関する悩みなどに対応します。
無料で利用できるのも利用しやすさのポイントです。
まとめ
社会保険適用拡大により、企業側・従業員側双方に影響があります。
企業側は社会保険加入者が増えると社会保険料の支払い負担が増えます。また、社会保険加入対象者へ加入を促す必要があるので体制を整える必要があるでしょう。
一方、従業員側も社会保険料の負担や社会保障の充実など、メリット・デメリットを考慮し、勤務時間の調整を希望するなどの対策が必要です。
2022年10月から変わる社会保険の適用拡大 により、働き方が変わるケースがあるので、企業側・従業員側ともに情報を把握しておくことが大切です。